18. 余滴 『敵に愛を』
忘れられないシーンがあります。1993年、長年紛争を続けていたイスラエルとパレスチナ解放機構(PLO)が、ようやく相互に相手国を承認し、和解と共存への第一歩を踏み出しました。その調印式が行われた時のことです。仲介役のクリントン大統領を間に挟んでイスラエルのラビン首相とPLOのアラファト議長とが並び、記念の撮影をしました。その時、アラファトは満面の笑みを浮かべながらラビンに向かって右手を差し出したのです。
ラビンは一瞬右手を差し出すことを躊躇しました。しかし、すぐにアラファトと握手をしたのです。直後の記者会見でラビンは問いただされます。「なぜ、アラファトと握手をするのを躊躇したのですか? でも、結局握手をしました」
その時、ラビンはこう答えました。「長年の敵であった者と握手をすることはできない。しかし、その敵と握手することなしには平和はやってこないのだ」
2年後、ラビンはイスラエルの過激派の青年によって暗殺されます。命をかけた敵との握手だったのです。この暗殺を機にパレスチナは再び憎悪と紛争の世界に戻りました。
敵を愛することほど難しいことはありません。しかし、敵と握手することからしか愛は始まらないのも事実です。
(マタイによる福音書6章5~8節)