26. 余滴 「下る」
人生には三つの坂があると言われます。「上り坂」、「下り坂」、そして「まさか」です。実は2年前、階段を踏み外して「まっさかさま」に転げ落ち、ひざを骨折したことがありました。「まさか」の次に「四つ目のさか」がありました。
五木寛之は『下山の思想』(幻冬舎新書)の中で「右肩上がりに進んできた日本は、いま下り坂にある。再びかつてのように上り坂を目指すのではなく、下り坂こそ成熟の道である」と書いています。それは「へり下り」への道といえるでしょう。
東京の山谷で伝道をした中森幾之進牧師は、神学生時代部落解放運動や農民運動に関わり、神学校を退学させられます。落胆した中森さんはひとり有馬山に上り、それまでの信仰や聖書を否定しようとしますが、かえってキリストの愛と救いに出会います。そして「山を下り」、当時もっとも低い町とされていた山谷へと向かい、そこで生涯伝道に身を捧げます。その半生を描いた本の題名は『下へのぼる歌』です。
「下へは下るものだ。しかし、下へくだり、もっと下へくだりきる時、それはもはやくだるのではなく、のぼることなのだ。なぜなら、その下りきった所にイエス・キリストがおられるからだ。十字架のイエスのところに上ることができるのだ。歌を歌いながら」 下にのぼる道もあるのです。しかも歌を歌いながら・・・
(マタイによる福音書8章1節)