14 余滴 『地を継ぐ』
山上の教えの三番目の祝福です。柔和な人とは一般的には「円満で、穏やか、謙遜な人」のことでしょう。東洋的な意味では人格者とは柔和な人のことでもあります。しかし、旧約聖書では意味が少し違います。詩編37:11には「貧しい人は地を継ぎ」とあり、「柔和な人」とは、むしろ「貧しい人」のことを意味しているのです。
東日本を襲った大地震と津波で家屋、土地、財産を失った多くの人々の悲しみに思いを寄せつつ、聖書をケセン語(岩手の気仙地域の言葉)に翻訳した山浦玄嗣さんは「貧しき人」のことをこう訳しています。「頼りなぐ、望みなぐ、心細い人ァ、幸せだ」 柔和な人とはこのような人々のことです。
詩編はさらに続けています。「主に望みを置き、主の道を守れ。主はあなたを高く上げて、地を継がせてくださる」(37:34) 頼るものをすべて失なった時、ただ神に頼り、神に望みを託すしかありません。それが「心の貧しさ」なのです。
イエスはその人々こそ神の地(国)を受け継ぐにふさわしいと宣言します。それはすでに「神の国」は近づいており、「柔和な人々」は神の地(国)を継ぐ望みの中に生かされているからです。
戦火で故国を追われた人々、難民として外国の地に住まざるを得ない人々、災害や地震で先祖伝来の家や田畑を失った人々、イエスもまた安住の地を持たない人でした。そのイエスと共に「柔和な人々」は神の国を継ぐことを約束されているのです。
( マタイによる福音書5章4~節)